世界のSAF(持続可能な航空燃料)供給は需要に対して圧倒的に不足しており、航空会社にとってSAFの確保は「価格交渉」以前に「調達競争」の様相を呈しています。本ページでは、長期オフテイク契約、日本のANA・JALの戦略、欧米大手の先行投資、そしてブック&クレームという新しい調達手法を報告します。

長期オフテイク契約──10年先の燃料を今買う

SAF調達の基本形となっているのが、長期オフテイク契約(引取契約)です。航空会社が5〜10年以上先までのSAF購入量と価格条件を製造事業者と事前に合意する契約形態で、航空会社にとっては将来の供給を確保する手段であると同時に、製造事業者にとってはプラント建設の投資判断を可能にする「需要の保証」となります。

SAFプラントの建設には数年を要するため、2030年の混合義務・目標に間に合わせるには、いま契約を結ぶ必要があります。世界の主要航空会社が公表したオフテイク契約の累計量はすでに数千万トン規模に達しますが、その多くは建設前のプラントからの調達であり、「契約はあるが燃料はまだない」という状態です。プロジェクトの遅延・中止リスクをどう分散するかが、各社の調達戦略の巧拙を分けます。

ANA・JAL──2030年10%へ共同で需要を創出

日本のANAとJALは、いずれも2030年度に燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を掲げています。両社は競争関係にありながら、SAFの需要創出では歩調を合わせており、共同レポートの発行や「ACT FOR SKY」への参画を通じて、国産SAFの市場立ち上げを需要側から支えています。年間の必要量は両社合わせて100万キロリットルを超える規模となるため、国産SAFの確保と海外調達の両面作戦が必要です。

具体的には、堺のサファイア スカイ エナジーからの国産SAF調達に加え、Neste社など海外大手からの輸入調達、LanzaJet社等の次世代技術企業への出資・提携による将来枠の確保を組み合わせています。また、両社とも搭乗者や法人顧客がSAFコストを分担できるプログラムを展開しており、需要側の裾野を広げる工夫を重ねています。

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欧米大手の先行投資──United・Delta・Lufthansa

欧米の主要航空会社は、規制対応の必要性から日本勢より早くSAF調達に動きました。米国のUnited Airlinesは、SAFスタートアップへ直接出資するベンチャーファンドを設立し、調達契約と資本参加を一体化した戦略で知られています。Delta Air LinesやAmerican Airlinesも大型のオフテイク契約を相次いで締結し、米国内のSAF生産拡大を需要側から牽引しています。

欧州では、ReFuelEU Aviationへの対応が至上命題となっており、LufthansaグループやAir France-KLMは、燃料供給者との長期契約に加え、環境サーチャージによるコスト転嫁の仕組みをいち早く導入しました。また、KLMやBritish Airwaysは自国内のSAFプラント建設プロジェクトへの出資も行っており、「調達」から「供給への関与」へと戦略を深化させています。こうした動きは、SAFサプライチェーンにおける航空会社の役割が単なる買い手から共同投資家へ変わりつつあることを示しています。

ブック&クレーム──飛ばない企業がSAFを買う

SAF調達の新しい潮流が「ブック&クレーム」方式です。これは、SAFの物理的な給油場所と環境価値(CO2削減効果)を切り離し、削減価値を証書として取引する仕組みです。荷主企業や出張の多い企業は、自社便が実際にSAFで飛んだかどうかにかかわらず、SAF証書を購入することで自社のScope3排出量(輸送に伴う間接排出)の削減として計上できます。

この仕組みにより、SAFのコスト負担者が航空会社だけでなく、物流企業、フォワーダー、そして一般事業会社へと大きく広がりました。DHLやクーネル・アンド・ナーゲルなどの物流大手は大量のSAF証書を確保して荷主向けの「グリーン輸送サービス」を展開しており、日本でも商社や物流企業による同様のプログラムが始まっています。ブック&クレームの詳しい仕組みと課題はブログ記事でも解説しています。

調達リスクの分散と今後の論点

SAF調達戦略の要諦は、リスクの分散にあります。第一に技術の分散です。HEFAだけに依存すると原料制約リスクを抱えるため、ATJ・FT合成・e-fuelの将来枠を組み合わせるポートフォリオ型の調達が主流になりつつあります。第二に地域の分散です。特定の国の政策変更や輸出規制の影響を避けるため、国産SAFと複数地域からの輸入を組み合わせることが重要です。

第三に契約形態の分散です。固定価格の長期契約は価格急騰への保険となる一方、原油価格が下落した場合には割高になるリスクも伴います。市場連動価格と固定価格を組み合わせ、ブック&クレームで需要側の負担分担も確保する、多層的な調達設計が求められています。

主要航空会社・グループのSAF目標(公表情報ベース)
航空会社 SAF目標 主な調達手法
ANA 2030年度に燃料の10% 国産SAF調達・海外長期契約・LanzaJet出資・法人プログラム
JAL 2030年度に燃料の10% 国産SAF調達・海外長期契約・搭乗者参加型プログラム
United Airlines 2050年ネットゼロ(オフセット非依存) SAFベンチャーファンド・大型オフテイク契約
Lufthansaグループ 2030年にCO2排出半減(2019年比) 長期契約・環境サーチャージ・法人向け証書販売
Delta Air Lines 2035年に燃料の10%以上 大型オフテイク契約・製造事業者との提携

需要側の戦略が出揃ったいま、焦点は「供給が本当に追いつくのか」に移っています。最終章では、需給ギャップの行方とSAF産業の将来展望を総括します。