2025年、日本のSAF産業は「輸入に頼る時代」から「国産SAFを自ら作る時代」への転換点を迎えました。本ページでは、国内の主要プロジェクトと担い手企業、企業間連携の枠組み、そして政府の支援策を整理して報告します。

国内サプライチェーンの現在地

日本政府は2030年時点で本邦航空会社の燃料使用量の10%をSAF(持続可能な航空燃料)に置き換える目標を掲げており、必要量は約170万キロリットルと試算されています。この目標に向けて、経済産業省と国土交通省は「SAFの導入促進に向けた官民協議会」を設置し、供給側(石油元売・エンジニアリング・商社)と需要側(航空会社)の双方を束ねる体制を整えてきました。

2025年4月には、国内初の大規模な国産SAFサプライチェーンが本格稼働し、堺市のプラントで製造されたSAFがANA・JALの定期便に供給され始めました。輸入SAFへの依存から脱却し、原料回収から製造・空港供給までを国内で完結させるモデルが動き出したことは、日本の航空脱炭素にとって画期的な一歩といえます。それでも2030年目標の達成には、現在計画中のプラントがすべて予定通り立ち上がることが前提となっており、国内SAF産業はまさに正念場を迎えています。

サファイア スカイ エナジー──国産SAFの先駆け

国産SAFの象徴となっているのが、コスモエネルギーグループ・日揮ホールディングス・レボインターナショナルの3社が設立した合弁会社「サファイア スカイ エナジー」です。大阪府堺市のコスモ石油堺製油所内に建設されたプラントは、国内で回収された廃食油のみを原料とするHEFA方式を採用し、年間約3万キロリットルのSAF生産能力を持ちます。

2025年4月からはANAおよびJALへの供給が始まり、製造から給油までを国内で完結する初の商業サプライチェーンが実現しました。レボインターナショナルが長年培ってきた廃食油回収ネットワーク、日揮のプラントエンジニアリング、コスモの製油所インフラという3社の強みを組み合わせた座組は、今後の国内プロジェクトのモデルケースとされています。

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ENEOS・出光興産・太陽石油──元売大手の大規模計画

2030年目標の達成には、年産数十万キロリットル級の大規模プラントが複数必要です。その中核を担うのが石油元売各社です。ENEOSは和歌山製造所跡地でのSAF製造事業を推進しており、フランスのトタルエナジーズとの協業も視野に、2020年代後半の供給開始を目指しています。既存の製油所インフラ(タンク、桟橋、用役設備)を活用できることが、石油元売がSAF事業で持つ最大の強みです。

出光興産は千葉事業所でエタノールを原料とするATJ方式のSAF製造を計画しているほか、国内外のパートナーとエタノール調達網の構築を進めています。太陽石油も四国事業所でのSAF製造を検討するなど、各社とも製油所の脱炭素転換の柱としてSAFを位置づけています。石油需要の長期的な減少が見込まれるなか、SAFは製油所の設備と人材を次世代に活かす「事業転換の受け皿」でもあるのです。

ユーグレナ・IHI・商社──多様なプレイヤーの参画

石油元売以外のプレイヤーの動きも活発です。ユーグレナ社は微細藻類由来のバイオ燃料開発の先駆者として、マレーシアでのパートナーとの大規模プラント計画を進めるほか、ミドリムシの安定培養と生産量予測にAI・IoTを活用する研究にも取り組んでいます。IHIは触媒技術を活かした合成燃料・SAF製造技術の開発を進めており、微細藻類の大量培養技術でも実績を積み上げています。

総合商社は、海外SAFの調達権確保、原料(廃食油・エタノール)のトレーディング、国内プロジェクトへの出資という3つの側面から市場に関与しています。三菱商事はLanzaJet社への出資を通じてATJ技術への足がかりを確保し、伊藤忠商事はNeste社製SAFの国内空港への供給で先行しました。エンジニアリング企業、金融機関、リース会社まで含め、SAFを取り巻くプレイヤーの裾野は急速に広がっています。

ACT FOR SKYと連携の枠組み

国産SAFの商用化には、業界の垣根を越えた連携が欠かせません。2022年に発足した「ACT FOR SKY」は、国産SAFの商用化・普及に取り組む有志企業の団体で、航空会社、エネルギー企業、商社、メーカー、物流企業など数十社が参画しています。廃食油回収の啓発活動から、サプライチェーン構築の課題共有まで、業界横断の活動を展開しています。

また、官民協議会のもとでは、供給目標の設定、設備投資への支援、品質・物流インフラの整備といった論点が継続的に議論されており、需要側と供給側が同じテーブルで国産SAFの立ち上げを進める体制が定着しつつあります。

GX経済移行債と政府支援策

SAFプラントの建設には1件あたり数百億円から千億円超の投資が必要であり、従来燃料との価格差が残る間は、政府支援が事業成立の鍵を握ります。政府はGX経済移行債を財源とする支援策として、SAF製造設備への投資支援や、グリーンイノベーション基金によるATJ・FT合成・e-fuel技術の開発支援を実施しています。さらに2024年度税制改正では、国産SAFの製造・供給を後押しする税額控除措置が創設され、価格競争力の下支えが図られています。

国内の主なSAFプロジェクト(公表情報ベース)
プロジェクト・企業 方式・原料 規模・時期 状況
サファイア スカイ エナジー(堺) HEFA/国内廃食油 年約3万kL・2025年供給開始 本格稼働(ANA・JALへ供給)
ENEOS(和歌山ほか) HEFA等/廃食油・油脂 大規模・2020年代後半 計画・設計段階
出光興産(千葉) ATJ/エタノール 年10万kL級・2020年代後半 計画段階
ユーグレナ HEFA系/微細藻類・廃食油 海外大規模プラント構想 開発・準備段階
IHI・エンジニアリング各社 FT合成・e-fuel技術 実証〜2030年代 技術開発段階

国内プロジェクトの立ち上がりは、国際規制と国内目標という「需要を作る制度」に支えられています。次章では、CORSIAやReFuelEU Aviationをはじめとする規制動向を整理します。