ニュースの概要
マサチューセッツ港湾局、デルタ航空、シェル・アビエーションなどは、ボストン・ローガン国際空港に向けた持続可能な航空燃料(SAF)の初のバージ(はしけ)輸送を発表した。運ばれたのは100万ガロン(約380万リットル)を超える混合SAFである。この燃料は空港の燃料供給網に組み込まれ、ローガン空港を使うすべての航空会社が利用できる。特定の航空会社だけが使う専用の燃料ではなく、空港共通のインフラに流し込んだ点が特徴だ。米国東海岸でSAFを運び、使う仕組みを広げるための実証例として位置づけられる。
引用元: 米ボストン・ローガン空港に初のSAFバージ輸送、100万ガロン超を供給(Biofuels International Magazine)
分析・見解
船で運ぶという選択が物流の壁を下げる
SAFの普及を阻む壁は、製造だけではない。作った燃料を空港まで運ぶ手段が限られることも大きな課題だ。航空燃料は多くの空港で、パイプラインやタンクローリー、鉄道で届く。ボストンのような東海岸の港湾都市は、内陸の製油所から離れており、陸上輸送だけでは量も回数も限られる。
バージは一度に大量の液体を運べる。しかも港湾に隣接する燃料施設へ直接つなげる。今回の100万ガロン超という量は、陸路のタンクローリーに換算すれば数百台分にあたる。輸送回数を減らせる分、1ガロン当たりの輸送コストと排出量を抑えやすい。SAFは通常の燃料より高いため、物流で削れるコストは小さくない。
特定社向けでなく空港共通にした意味
今回の最大の特徴は、燃料を共通の供給網へ入れたことだ。多くの先行事例では、航空会社が自社のために燃料を調達し、自社の便にだけ使う。この方式は分かりやすい反面、SAFを使える空港が限られる。調達する側にとっても、専用の貯蔵や配送を用意する負担が重い。
共通網に入れる方式なら、燃料は既存のタンクや配管の中で通常の燃料と混ざり、どの航空会社の給油にも使える。いわば電力の「グリーン電力証書」に近い発想である。環境価値(=CO2削減の効果)は帳簿上で、費用を負担した会社へひも付ける。物理的な燃料の行き先を厳密に分ける必要がなくなるため、設備投資が小さくて済む。
米国の制度とデルタ航空の狙い
米国ではインフレ抑制法の枠組みで、SAFの製造や混合に税額控除が設けられてきた。州レベルでも独自の支援策がある。こうした制度があるため、供給側は米国内での販売に採算の見通しを立てやすい。デルタ航空は北東部に多くの路線を持ち、ボストンは主要拠点の一つである。ここで安定的にSAFを確保できれば、自社の削減目標を実際の給油で裏づけやすくなる。
シェル・アビエーションは燃料の供給と混合を担う立場だ。製造者と空港のあいだに立つ商社的な役割が、SAFの物流では重みを増している。
独自の視点:勝負は製造量から受け入れ態勢へ移る
SAFの話題は製造能力に偏りがちだが、今回の事例は別の論点を示す。どこに、どの形で、誰でも使える状態にして置くかという受け入れ態勢の問題である。製造が増えても、空港側に荷揚げ設備、貯蔵、品質検査の仕組みがなければ、燃料は使われない。船の接岸、タンクへの移送、規格の確認という一連の流れを一度通したこと自体が、次の輸送を安くする。初回の実績は、保険、検査、港湾の手続きを標準化する土台になる。今後は、製造量の競争より、空港ごとの受け入れ実績の差が普及速度を分けるだろう。
ビジネスへの影響
日本の空港と燃料会社が学べる共通網の考え方
日本でも、製油所や港湾に近い空港は多い。国内でSAFの生産が始まれば、まず大きな問題になるのは、複数の航空会社が同じ空港でどう調達し、どう配分するかである。ボストンの方式は、空港単位で供給網に組み込み、環境価値の帳簿管理で費用負担を分ける発想を示している。空港運営会社や石油元売りは、荷揚げ設備や貯蔵の混合ルールを早めに検討しておく価値がある。
調達担当者が今から確認しておきたいこと
航空会社や航空貨物を使う荷主企業にとっては、SAFの環境価値を購入する選択肢が現実味を帯びる。確認すべきは三点である。第一に、購入するのが実際の燃料か、環境価値だけか。第二に、削減量を第三者が検証する仕組みがあるか。第三に、自社の排出量の報告制度で、その削減量をどう計上できるか。これらを曖昧にしたまま契約すると、後から報告に使えないという事態になりかねない。
輸送コストの削減は、価格交渉の材料にもなる。供給側にバージや鉄道など複数の輸送手段があるかを尋ね、調達の安定性とコスト構造を比較するとよい。