ニュースの概要
コスモ石油、丸善石油化学、宇部丸善ポリエチレン、SAFFAIRE SKY ENERGYの4社が、コスモ石油堺製油所のSAF製造工程で副産されるナフサの活用を始めた。SAFを製造すると、目的製品だけでなく、化学産業で利用可能な留分も発生する。今回の取り組みは、そのナフサを原料として再び活用し、燃料製造と化学品製造をつなぐものだ。SAFの量を増やすだけでなく、副産物の販売先、輸送、品質管理まで含めた事業全体の効率を高める点に意味がある。国内でSAFの供給網を形にするうえで、製造工程の採算を支える具体的な事例となる。
引用元: コスモ石油堺製油所のSAF製造工程で副産ナフサの活用を開始(PR TIMES)
分析・見解
SAFの採算を支える副産物の出口が生まれる
SAF事業では、航空会社に販売する燃料の量だけを見ていると、採算の実像を見誤る。原料の調達費、前処理、反応、精製、保管、輸送まで多くの費用がかかるためだ。製造工程で生じるナフサを廃棄物に近い扱いにせず、化学原料として売れるなら、製品一トン当たりの実質的な負担を下げられる。これは単なる副収入ではなく、設備の稼働率を高めるための収益の柱になり得る。
特にSAFは、従来の航空燃料より高価になりやすい。環境価値を持つ燃料でも、航空会社が継続的に購入するには価格と供給安定性が必要だ。副産物を適正な価格で引き取る仕組みは、SAFの販売価格だけに負担を集中させないための重要な工夫である。
製油所と化学工場を結ぶことで資源の無駄を減らす
今回の特徴は、ナフサの利用先が製油所の外部に突然作られたのではなく、既存の石油化学網と結び付いている点にある。丸善石油化学や宇部丸善ポリエチレンが関わることで、受け入れ後の加工、品質確認、製品化までの流れを組み立てやすい。製油所にとっては副産物の出口が明確になり、化学側にとっては新たな原料源を得る可能性が生まれる。
ただし、ナフサなら何でも同じように使えるわけではない。成分、硫黄分、水分、異物、蒸留範囲などを安定して確認しなければ、化学設備の運転や製品品質に影響する。SAFの原料や製造方法が変われば副産ナフサの性状も変わるため、受け入れ規格と検査方法を継続的に見直す必要がある。資源循環の成否は、理念よりも日々の品質管理で決まる。
SAFの供給拡大には設備能力だけでなく物流設計が要る
日本では、航空会社の脱炭素目標や国の導入方針を背景に、2030年に向けたSAFの供給体制づくりが進む。一方で、SAFを製造する設備を建設すればすぐに供給が広がるわけではない。原料を集め、製造し、品質を証明し、空港まで運ぶ一連の仕組みが必要になる。副産ナフサの利用は、この一連の流れに化学産業を組み込む取り組みである。
独自の視点で見ると、今回の動きは「SAF工場」を単独の燃料工場としてではなく、複数の製品を生む地域産業の拠点として捉え直す契機になる。主製品のSAFだけでなく、副産物、熱、貯蔵設備、分析機能を組み合わせれば、需要変動への耐性も高まる。SAF価格が一時的に上昇した場合でも、他の収益源が設備の稼働を支えられるからだ。
環境価値を正しく数える仕組みが信頼を左右する
副産ナフサを化学原料に回すことは資源の有効利用につながるが、環境負荷が自動的にゼロになるわけではない。輸送に使う燃料、追加の精製、化学品製造で消費するエネルギーも評価対象になる。SAFの温室効果ガス削減効果を説明する際は、原料の由来から製造、利用までの排出量を一貫して追跡する必要がある。
今後は、燃料としてのSAFの認証だけでなく、副産ナフサがどの工程を経て化学品になったかを示す記録も重要になる。企業が環境報告や取引先への説明に使うには、数量、品質、由来、移送先を結び付けた管理が欠かせない。今回の取り組みは、製造技術だけでなく、こうした証明の仕組みを整える実証の場にもなる。
ビジネスへの影響
事業者はSAF単価ではなく製造全体の収支を見る
SAFへの投資を判断する企業は、販売価格と原料費の差だけで採算を計算すべきではない。副産ナフサの販売収入、廃棄や処理にかかる費用の削減、既存タンクや配管の利用効果まで含めて、製造単位の収支を作る必要がある。副産物の価値が高ければ、SAFの販売価格を抑えながら設備投資を回収できる可能性がある。
ただし、収入を過大に見積もると危険だ。ナフサの価格は原油や石油化学製品の市況に左右される。引き取り企業が一社に偏れば、設備停止や品質不一致がそのままSAF事業の負担になる。複数の販売先、長期契約、価格連動条件を組み合わせ、主製品と副産物の双方に市場リスクを分散させることが実務上の要点となる。
調達担当者は品質規格と環境証明を契約に組み込む
化学会社や航空会社が関係企業と契約する際は、ナフサの成分規格だけでなく、検査頻度、異常時の扱い、受け入れ停止の条件を明記したい。原料の性状が変わった場合に、誰が追加分析費や設備調整費を負担するのかも事前に定める必要がある。試験運転時のデータを本格運用の基準にしないことも重要だ。
航空会社や荷主は、SAFの削減効果を取引先や利用者に説明する立場にある。そのため、燃料の混合率や供給量だけでなく、製造工程で生じた副産物の扱い、輸送距離、環境価値の帰属を確認できる資料を求めるべきだ。サプライヤー選定では、価格の安さだけでなく、追跡可能性とデータ提出能力を評価項目に加えると、後の報告負担や説明リスクを抑えられる。
地域連携型の設備計画が投資の失敗を防ぐ
今後の設備計画では、SAF専用設備を単独で建てるより、製油所、化学工場、物流拠点を一体で設計する方が合理的な場合がある。原料と副産物の移動距離を短くでき、共通の貯蔵設備や分析機器を使えるためだ。自治体や港湾事業者を含め、非常時の代替輸送ルートまで検討すれば、供給停止のリスクも下げられる。
企業が次に確認すべきなのは、年間の副産ナフサ量だけではない。月ごとの発生量、品質の変動幅、設備の定期修理時期、引き取り側の稼働状況を重ねて見る必要がある。SAFの需要が伸びても、副産物の受け入れ先が同時に稼働できなければ循環は止まる。今回の事例は、燃料の量産計画と副産物の利用計画を最初から一つの事業計画として作る重要性を示している。