コスモ石油マーケティング、東京都の国産SAF緊急対策に採択――石油元売が描く航空燃料の地政学再構築

コスモ石油マーケティング、東京都の国産SAF緊急対策に採択――石油元売が描く航空燃料の地政学再構築

ニュースの概要

コスモ石油マーケティングが、東京都が実施する「国産SAF利用促進緊急対策事業」の採択事業者に選ばれた。本事業は、国内で製造された持続可能航空燃料(SAF)の調達・利用を加速させることを目的としており、自治体レベルでSAFの供給基盤整備に踏み込んだ施策は全国でも珍しい。石油元売グループの一社がこうした枠組みに名を連ねた背景には、国内外の規制強化を見据えた供給チェーンの再構築という経営判断がある。本稿では、今回の採択が持つ産業構造上の意味と、国産SAF普及が直面する障壁を乗り越える方策について掘り下げる。

引用元: コスモ石油マーケティングが東京都の「国産SAF利用促進緊急対策事業」に採択(prtimes.jp)

分析・見解

日本のSAF政策はこれまで、経済産業省を中心とした国レベルのロードマップ策定に重心が置かれてきた。2023年に政府が発表した「SAF生産・利用ロードマップ」では、2030年度までに国内航空燃料需要の10%をSAFで賄う目標を掲げている。しかし、国内生産量は極めて限定的であり、供給の大部分を輸入に依存せざるを得ない現実がある。こうした構造の中、東京都が独自の緊急対策事業を立ち上げ、コスモ石油マーケティングのような石油元売系列の販売会社を採択した事実は、政策の重心が「地域主導の実装フェーズ」に移行しつつあることを示唆している。

コスモ石油マーケティングは、コスモ石油ホールディングス傘下で航空燃料の地上給油や販売を手掛ける企業である。同社が本事業に採択された意義は、単なる燃料調達を超えて、都市部におけるSAFの「最終配送・利用モデル」の確立に挑戦する点にある。SAFの課題は、製造技術や原料調達だけではない。精製された燃料をどの空港に、どう届け、航空会社にどう販売するかという流通・販売のインフラこそが、普及速度を左右する決定的な要素である。コスモ石油マーケティングはすでに羽田・成田を中心に全国主要空港で給油ネットワークを保有しており、この既存インフラを国産SAFの流通基盤として転用できる強みを持つ。

注目すべきは、本事業が「国産」に焦点を当てている点だ。欧州では、ReFuelEU Aviation規則のもと、2025年からEU離発着便に対しSAFの混合義務が段階的に強化される。しかし欧州域内のSAF生産量も需要に追いついておらず、国際的なSAF奪い合いがすでに始まっている。こうした供給逼迫を背景に、日本国内で自給可能なSAFの生産・利用サイクルを構築することは、エネルギー安全保障の観点からも極めて重要な戦略となる。東京都が自治体としてこの領域に踏み込んだ背景には、2024年パリ五輪や欧州の政策動向を参照し、日本発の都市として脱炭素航空のモデルケースを提示したいという意図が窺える。

技術的な視点では、国産SAFの原料確保が依然として大きなハードルである。廃食用油(UCO)や間伐材、藻類など様々な原料が検討されているが、国内で安定的に調達可能な量は限られている。コスモ石油グループは、バイオマス由来燃料や合成燃料(e-fuel)の研究開発にも取り組んでおり、原料の多様化と国産化を同時に進める技術ポートフォリオを構築しつつある。今回の採択は、そうした技術開発の成果を実際の流通段階で検証するフィールドトライアルとしての性格も帯びている。

もうひとつ見逃せないのは、航空会社との連携構造だ。コスモ石油マーケティングは航空燃料販売の立場から、全日本空輸や日本航空といった主要キャリアと日常的に取引がある。SAFの導入拡大には、航空会社が追加コストを負担する意思決定が必要であり、そのためにはSAFの価格プレミアムをいかに合理化するかが鍵となる。東京都の事業枠組みを活用することで、自治体がコスト負担の一部を吸収し、航空会社・燃料サプライヤー・自治体が三位一体となった実証モデルを構築できる可能性が開けた。

今後注目すべきは、本事業の成果が他自治体へ波及するかどうかだ。大阪府や福岡県など、国際空港を抱える他の地方自治体も、独自のSAF促進策を検討し始めている。東京都の先行事例が成功すれば、国レベルの補助制度に先行する形で、地方自治体によるSAFインフラ投資が全国展開されるシナリオが現実味を帯びる。これは、中央政府の政策形成速度が実務のニーズに追いつかない中で、現場主導のボトムアップ型政策形成が進んでいることを示す好例とも言える。

ビジネスへの影響

企業の意思決定者にとって、今回の採択が示す最も重要なシグナルは「SAFの調達戦略を、国やグローバル市場の動向だけに依存する段階が終わりつつある」という点である。東京都のように自治体が独自の財政枠組みを設けてSAF導入を後押しする構造が生まれれば、企業は地域ごとの政策インセンティブを戦略的に活用する視点を持たなくてはならない。

まず、航空会社・物流企業は、自社のScope 3排出量削減目標の達成に向けた手段として、地域自治体との連携チャネルを能動的に構築すべきだろう。例えば、東京都が推進するSAF対策事業に参加することで、国産SAFの利用割合を高めつつ、自治体からの支援を受けながらコストプレミアムを緩和できる可能性が性がある。同様の枠組みが大阪・名古屋・福岡などで展開されれば、国内線・国際線の両方でSAF利用比率を段階的に引き上げる「地域分散型SAF調達モデル」が現実性を帯びる。

製造業や商社にとっては、SAF原料サプライヤーとしての参入機会が広がっている。廃食用油、林地残材、農業残渣、都市ゴミ由来の廃棄物など、地域ごとに異なる未利用バイオマス資源をSAF原料として集荷・前処理するビジネスは、自治体の脱炭素政策と親和性が高い。コスモ石油マーケティングのような既存プレイヤーとの連携を通じて、原料調達から精製、流通までのバリューチェーンに参画する道筋が描ける。

投資家・金融機関の視点では、SAF関連インフラ投資のリスク評価基準が変わりつつあることに注意が必要だ。従来、SAFプロジェクトは技術リスクと原料確保リスクが評価の焦点だったが、自治体の政策支援が加わることで、事業の財務的持続可能性が高まるケースが増えている。東京都の緊急対策事業のような枠組みは、プロジェクトファイナンスにおける信用補完として機能し得る。ESGファンドやグリーンボンド発行者は、自治体連携の有無を新規な投資判断軸として組み込むべきだろう。

加えて、本事業は「国産SAF」に特化している点が実務上重要だ。国際市場から輸入されるSAFは、原料の出所や持続可能性認証の透明性に課題が残る場合がある。 domestically produced SAFであれば、日本国内の法規制・認証基準に即した品質管理が可能であり、欧州のISCCやRSBといった国際認証の取得負担を減らせるメリットもある。輸出志向の航空会社や物流企業にとっては、国際認証との整合性を確保しつつ国内生産SAFを活用できる体制は、欧州路線の環境規制対応において competitive advantage となり得る。

最後に、こうした自治体主導のSAF施策は、地域経済への波及効果という視点も欠かせない。国産SAFの生産・流通プロセスは、地方の未利用資源の活用、新規雇用の創出、エネルギー関連投資の誘致につながる。企業は、自社事業と自治体のSAF政策を組み合わせることで、CSR・ESG報告における地域貢献の側面を強化でき、ステークホルダーからの評価向上にも寄与する。

関連記事